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「では行ってきます。次に会うときは互いに、世界を正す調停者で在らんことを」
二人の妹に見送られながら、カミーラは大木の根元から離れる。
玄関には院長と、他の子供たち。そして場違いな黒塗りのベンツの迎え。
これから自分は、父の同族を守るために戦う。
狩人と呼ばれる、同族を護る担い手として戦いの場は、どれほど過酷なのか。
まだ僅か十一の少女であったカミーラには見当もつかない。
だが、一つだけ分かっていることがある。
「「カミーラ、頑張ってね!」」
背後、自分を見送ってくれる同朋と、
「「また、ね」」
必死に涙を堪える二人の妹を護るため、自分はどんな道さえ踏み越えていくのだと…。
カミーラを乗せた車が、ゆっくりと孤児院を離れていく。
カミーラはとても十一の少女とは思えぬ凛とした表情で、前方を見据えていた。
だが急に、
キィィーー、と車が急停車した。
「…どうされましたか?」
ベンツを運転する男に問い掛ける。
「いい家族じゃないか。ほら」
運転手は後ろを指差す。
その指に釣られ、カミーラは後ろを向いた。
「え?」
そこには一本の光が天へと走っていた。
それは神楽の持つ能力の一端であると、すぐにわかった。
「ああやって、見送ってくれる家族がいるんだ。羨ましいねぇ」
運転手の男は、これ以上の言葉は無粋と、顔を前に向ける。
「そう…ですね。
私には、勿体無い家族…です」
カミーラの頬には先ほどまで堪えられていたものが伝っていた。
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