プロローグ

4/4
2002人が本棚に入れています
本棚に追加
/258ページ
「では行ってきます。次に会うときは互いに、世界を正す調停者で在らんことを」 二人の妹に見送られながら、カミーラは大木の根元から離れる。 玄関には院長と、他の子供たち。そして場違いな黒塗りのベンツの迎え。 これから自分は、父の同族を守るために戦う。 狩人と呼ばれる、同族を護る担い手として戦いの場は、どれほど過酷なのか。 まだ僅か十一の少女であったカミーラには見当もつかない。 だが、一つだけ分かっていることがある。 「「カミーラ、頑張ってね!」」 背後、自分を見送ってくれる同朋と、 「「また、ね」」 必死に涙を堪える二人の妹を護るため、自分はどんな道さえ踏み越えていくのだと…。 カミーラを乗せた車が、ゆっくりと孤児院を離れていく。 カミーラはとても十一の少女とは思えぬ凛とした表情で、前方を見据えていた。 だが急に、 キィィーー、と車が急停車した。 「…どうされましたか?」 ベンツを運転する男に問い掛ける。 「いい家族じゃないか。ほら」 運転手は後ろを指差す。 その指に釣られ、カミーラは後ろを向いた。 「え?」 そこには一本の光が天へと走っていた。 それは神楽の持つ能力の一端であると、すぐにわかった。 「ああやって、見送ってくれる家族がいるんだ。羨ましいねぇ」 運転手の男は、これ以上の言葉は無粋と、顔を前に向ける。 「そう…ですね。 私には、勿体無い家族…です」 カミーラの頬には先ほどまで堪えられていたものが伝っていた。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!