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降り続ける、雨。
夕方から降り始めた雨は、夜も降り続けていた。
そんな雨の音を耳に響かせながら、鏡樹里は椅子に背中を預けて瞳を閉じる。
大学を卒業した録文雄により設計された教師棟。その中にある鏡の研究室は教師室・生徒室、そしてロフトの資料室が一体となって構成される。全体を通して無駄を排除されたデザインは鏡研究室も同じで、倉庫のように感じさせるが、綺麗に整頓された室内はカフェのようだった。
けれど、こんな雨の日はそんな室内が冷たく感じる。
瞳を閉じ続ける、鏡。
すると、雨に紛れて扉が開く音が鏡の耳に届いた。
その音にゆっくりと瞳を開けると、藤祐輔が微笑み小さく頭を下げる。
鏡の研究室の生徒である藤祐輔。伸びた髪を軽く整え、黒縁眼鏡の奥にパッチリとした瞳が映る。
普段は頼りない雰囲気で笑う彼。
けれど、鏡を見る今日の彼は普段と同じように笑うが、悲しげな表情を微かに浮かべていた。
「どうも、鏡教授」
『どうも、藤君』
祐の言葉に鏡は微笑み返すと、彼はゆっくりと自分の机の椅子に腰を下ろす鏡の前まで歩いてきた。
鏡は彼が足が止まったのを確認して、向けていた視線を彼の瞳に合わせ尋ねる。
『調子はどうかしら?』
「最悪ですね・・・」
そう言って苦笑する祐は、まるで日常のように平然と言う。
その姿は無実の罪で警察に追われているようには見えない。
『真犯人はわかったのかしら?』
「・・・・・・」
聞いた言葉に黙ってしまう、祐。
少し様子がおかしいと感じた鏡が、祐の顔を覗き込みと、祐は決意したようにゆっくりと視線を合わせ聞いてきた。
「鏡教授は知りたくない真実を知ってしまったら、・・・・・・どうしますか?」
そう聞いてくる祐の瞳は真剣で、鏡はあまり見せない彼の表情に驚きながらも答える。
『アナタはコレを知っているかしら?』
言葉と共に、鏡は引き出しから漆黒に染まった紙を一枚取りだし祐に見せた。
“死亡通知書”
そう白い字で書かれた黒紙に、成宮浩一と男の名前が書かれている用紙を前に、祐は首を振った。
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