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【Scene2】
黒のマジックペンで書かれたお品書きが、札になって壁中に貼られている。そのどれもが店内に充満した煙りの性で黄ばんでいる。呆れた事に、新メニューと書かれた札さえ黄ばんでいるのだから、もはや新メニューは定番メニューと化している。
その黄ばんだお札を眺めていた晃が店員に、「冷奴!」と大声で注文してから、ついでのように聞いてきた。
「最近どう?」
どうと言われても。
「仕事はどう?」
話の種が無くなれば、自ずと出てくる話題だ。別に聞きたくて聞いてるわけじゃないだろうし、どんな答えをしたところで晃のリアクションは変わらない。だから俺も機会的に晃の質問に答える。
「何の仕事をしてるかわからないさ。波風を立てることなく、目の前に羅列された数字に、魔法をかけてるだけだ」
「うーん、わかるわかる。人生楽ありゃ苦もあるさってやつだよな」
やっぱりどうでもよかったんだ。晃はまったく俺の話しを聞かず、蛸わさをつまみながら適当に言ってやがる。
ちょいと腹は立つが、別段膨らまして欲しい話題でもないので、それでいい。
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