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【Scene3】
向かいに座る中年男性客の背中を見ると、俺はやり切れなくなる。よれよれの灰色のスーツが哀愁を漂わせていると、表現すれば言葉の響きはいいが、哀愁よりも和を掛けた哀しみを感じるのは俺だけだろうか。
見たところ五十代くらい男性二人が背を丸め、ほとんど会話もせずに、ちびちびと日本酒を口に運んでいる。
俺が描いていた五十代といえば、こんな煙たい大衆居酒屋ではなく、照明を暗くして落ち着かせた居酒屋で酒を飲むものだと思っていた。
だが現実はどうだ? 変わらないじゃないか。歳は違えど、同じ単価の居酒屋で酒を飲んでいる。
それが良いとか悪いとかじゃなくて、切ないのだ。まるでそれが何年後かの自分を見るようで……。
紺の割烹着姿が似合う女性店員が、やっと焼きししゃもを運んできた。待ち切れない晃は、まだ皿がテーブルに置くか置かないかの中途半端な状態で、焼きししゃもを手掴みで取り、口に入れる。
「なあ、源はさあ、三十万円あったら何に使う」
尻尾が口からはみ出ているのもお構いなしに、唐突な質問を晃はしてきた。
また適当な話題だと思い、「ここよりグレードの高い居酒屋で酒を飲む」と適当に答えてやった。
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