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紡ぐ
「何を、しているんだい?」
私の隣で目を伏せながら何事か呟き時折膝に置かれた成長しきらない細い指先を動かしている子鬼にそう問いかける。
すると彼は視線だけをこちらに一度だけ向けるとすぐにまた目を伏せた。
「龍神さま知らないんだ。…あぁ、聖域なんかでずっと他との交わりを拒んでたから世間を知らないんだっけ。」
何気に酷いことを言われているが別に気にしたことではない
。口が悪いのはいつものこと。それにこの私にこういう口のききかたをする輩はまずいないからかえって嬉しい。
特に怒る要素もないので軽く相槌をうつことで先を促す。
「…言霊を紡いでるんだよ。生けるモノも死せるモノも、言霊で繋がる。…龍神さまも引きこもってばっかじゃなくて見習ったら?」
「俺は…会話が苦手なんだよ。それに、今はお前が話し相手としている。十分だ。」
満面の笑みと共に言ってやればこの子鬼は表情はたいして変わらなくとも嬉しそうに唇を動かす。
最近見つけた癖だ。まだまだ子供。完璧に表情を隠しきれない。
目を隠してしまう程長い前髪をかきあげて小さな角に触れると露骨に嫌そうな顔をして振り払われる。
嗚呼、その角の小ささで自分が出来損ないという事を実感してしまうのだろう。
…かわいそうに。人と妖しの間に産まれてしまったばっかりに。
言霊を、紡いでやろう。
哀れな子鬼の為に。
それで少しでも救われるのならば。
お前が
必要だ、
と。
私のこの声で良いのなら。
何度だって紡いでやろう。
了
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必要だと言われるだけで心安らぐ。
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