934人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
週始めの朝。
言っていた通り、彩は裕太の家には来なかった。
ひとりで登校するというのも久々なものだった。彩が登校時に隣にいないというだけで、こうにも景色が違って見えるとは裕太は思ってもいなかった。
なんだか、とても寒い。
「あ……」
学校より少し手前の交差点で、信号待ちをしている岬を見つけた。
「おはよう、珠希さん」
「おはようっ。美波くん」
お互い軽く手をあげて、挨拶。
「えっと、手応えはどう? 昨日の追試」
それとなく昨日のことを訊いてみる。
「うん! 手応えはアリ! みんなのおかげだよ!」
にっこりと笑って岬はそう言った。
良かった――と一応裕太も安堵、そっと胸をなで下ろした。
「それは、良かった」
「まだ安心は出来ないけどね。と一昨日はホントにごめんよ? なんか勝手に帰ってくれ! みたいな感じになっちゃって……」
「いやいや、良いって。またお邪魔させてもらうからさ」
「うん。ぜひぜひ来てよ」
――みんなでさ、と。
「……おう」
みんなで、か。それが誰を意味しているのかは裕太にも分かった。が、言葉には出さなかった。
「そういえば、喜多嶋くんを追試の時見かけたよ。彼はなんだか『俺は全教科だぁ~』って嘆いてたけど」
「喜多嶋……」
あいつ、進学出来るのだろうか。金にモノを言わせるようなことはしないと良いが……と裕太は果てしない不安を覚えるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!