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彩は、決めたのだと急いで無理をしている。でも、そんなのって、違う。
本当に決めたなら。本当に伝えたいことを、本当の言葉を伝えるべきなのだ。
「由衣ちゃん……?」
彩の性格上、本人を目の前に、きっと強がってしまう。思ってないことを、言ってしまう。
それなら、しっかりと考えて自分の言葉を伝えられるような環境を、私が作れば良い。
「あのね、私に考えがあるのだけれど――」
考え――私は、彩と岬ちゃんに草陰に隠れているように言うと、少し進んで東屋まで登る。そして私は、後ろ姿で立つ裕太に話しかけた。
「なかなか、寒いもんだね……裕太」
「――っ!?」
驚いたように、裕太は振り返る。しかし、瞳を見て、あの時――去年の大晦日とは違うことに気付く。
今の裕太は、ぜんぶ知っている。
それでも私は裕太に、何かを言うつもりはない。今も、そして、これからも。
そして、今に言うべきは私ではないのだ。
私の役は、ただずっと、彩の出番を待つことだけだ。
☆
裕太はただ目の前の暗闇を見つめ続ける。じきに聞こえるはずの声を待つ。自分に出来ることは、それ以外になかった。
辺りは本当に静かだった。静かで、それでいて、自然は自分の心臓と反比例するかのように穏やかだった。
「…………」
裕太は暗闇を目の前にして、瞳を強く閉じる。口を結ぶ。
暗がりと静けさは、ひたすらに続いた。
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