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この場所へくれば、この街を、すべてを見渡せるはずだと裕太は思った。だからきっと、ここに行き着いたのだ。
そして、ついに――
「裕太……そのまま聞いて」
――暗闇のどこからか、彩の声が辺りに響いた。
「……っ!」
いつの間にか、由衣はいなくなっていて、裕太の知る限りの空間には、自分と彩の二人だけだった。
「あのね、私……、」
鼓動ってものを初めて知ったように思う。己の心臓は、今までこんなにも大きく、激しく全身に血を送り出していたか。
「私……っ、」
そして、ついにその言葉を――
「私……私って吹奏楽部じゃない?」
「うん……うん!?」
――え。それ、今言わなきゃいけないことなんですか!?
「だから、明後日から文化祭まで一週間、流石に私も朝練に出なきゃなんない。放課後も、夜まで、ずっと。だって強化部だもん」
「そ、そうか……頑張れよ」
心の準備の空回りか。裕太は心臓がキュッと縮むように感じた。
「だから、さ」
だから……と、彩は言葉を続け、
「今、言うわ。今しか、言えないから。私は裕太に文化祭の日、言いたいことがあるの」
「……っ!?」
不意打ち、だった。
そうか。つまりは明後日から一週間、彩は裕太と一緒に登下校できない。だから、今。今、文化祭の日に話があると、彩は言った。直接、自分の声で。
もう逃げ場はない。それを裕太が、どう受け入れるかなのだ。
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