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☆ ☆ ☆
裕太はネタに詰まっていた。
それどころか、暑くて暑くて何かを考えるのさえも億劫だった。
団扇で顔を仰ぎながら重い腰を上げ机に向かう。
新学期明け最初の刊行誌に間に合わせる為には一週間後、最低でも十日後までには原稿を書き上げなければならない。
パソコンのテキストを開き、キーボードに手を翳す。が、そのまま静止する。
ああっ、と裕太は首を垂れ下げて溜め息を付いた。
「やっぱり俺には才能がないのかなあ……」
そもそも恋愛モノは苦手なのだ。
万人受けするから、と部長に言われ結局断れずに了承してしまったことを思い出し後悔する。
読み切り作品だというのが、僅かな救いだった。
最初は、自分は期待されているのだと舞い上がっていたのだが、此ほどまでにネタが上がったっきりだと、もうどうしようもない。
額を汗が伝う。というか、全身汗だくだった。
何が悲しくて、高校二年生の夏をクソ暑い部屋に閉じこもって過ごさなければならなくなったのか。
一か月前まではそこに在ったエアコンの跡を、裕太は茫っと眺めた。
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