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部屋の壁の上の方には長方形の薄い黒いシミが出来ている。
部活とバイトを両立させ、やっと貯まった金で四月に買ったエアコン。それは夏休み開始前日に、
「は、自主回収?」
リコール? なにそれ食えんの? 発火の危険性がなんたらかんたらで業者に持って行かれてしまった。戻ってきた料金は当たり前のように母親の財布へと入っていった。
勿論、母親には抗議したが、
「三か月間、誰が高い電気代払ったと思っているの? 私でしょ? 私よね?」
「……」
実質的には一か月も使ってません、などと言える状況でも、立場でもなく。
結局、裕太の元に金が戻ってくる事はなかった。
よく自分はこの猛暑の中、団扇と扇風機だけで生きてこれたなと自賛する。
うっすら両目に涙を浮かべ、壁のシミから横で首を振ってる扇風機へ、そしてパソコンのデスクトップへと目を動かした。
カーソルは、まだ画面の中間地点辺りで点滅している。
「はああ……」
この現状を見る度に溜め息を漏らしてしまう。一応、やる気はあるのだが。
「取り敢えず、汗だくで気持ち悪いしシャワーでも浴びてくるかな……」
裕太はパソコンをスリープモードにし、洋服棚から着替えを取り出した。
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