秋ってまだ夏ですよね?

5/10
前へ
/399ページ
次へ
  「げ。これ父さんのじゃん」    裕太はゴムの伸びた灰色のボクサーパンツの端を両手で持って広げた。母親が間違えて入れたのだろう。   「…………」    後で父親の棚に入れ直しておこうと左手でパンツの端の方を持ち、改めて自分のトランクスを取り出す。   「え?」    次の瞬間、手に持っていたはずのパンツが消えていた。  窓は全開。反対側には扇風機(強風)。   「うっわ、マジかよ……。まあ良いかな、父さんのだし……、ん?」    しかし、窓から落ちたと思われた父親のパンツは窓の手前に落ちていた。   「あれ、窓から飛んでいったかと思っ――」    ――ないのだ。  右手にあるはずの自分のトランクスがなかった。   「おいおい、嘘だろ……」    窓から顔を出すと、家の前の道路に、自分がさっきまで持っていたトランクスが落ちているのが見えた。   「やばい……、あれは……っ」    あのトランクス――実は裕太が、修学旅行の時、決してなくしてはなるまいと学校名から氏名までをも書いた、個人情報パンツなのだ。もしあれが人に、特に同じ学校の生徒に拾われでもしたら、この上ない恥である。  生きてなどいられない。そいつを殺して自分も死ぬしかない。  裕太は急いで階段を駆け下り、玄関を飛び出した。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

934人が本棚に入れています
本棚に追加