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道路に飛び出ると、ちょうどカラスがトランクスを啣えて飛び立つところだった。
「は!? 何でカラスがトランクスなんか持って行くんだよ!」
理由を理解するのに、そう時間は掛からなかった。
ボタンだ。あのトランクスには少し光沢のあるボタンが使われているのだ。
それをカラスは啣えているのだろう。
裕太は自転車に跨るとカラスを追い掛けた。
くそ、漫画じゃあるまいし! と心の中で叫ぶ。なんてアニメ的演出。
むしろ、ボタンだけ千切って持っていって欲しかった。あんなもん、いくらでもくれてやったのに。
カラスはトランクスを啣えたまま飛び続け、自宅から約二キロ先の電線の上でやっとのこと停まった。
「ようし……」
裕太はカラスに向かって手当たり次第に石を投げた。が、カラスは飛んでくる石をヒラリヒラリと避け、近くの家の二階の窓枠に飛び移った。
その窓は――全開であった。
そのカラスがカァと一度鳴き声を上げたかと思うと、裕太のトランクスはカラスの嘴から離れて、ヒラヒラと吸い込まれるように部屋の中へと入っていった。
「おいおい、冗談じゃねえぞ……」
裕太はどうすることも出来ず、その場で右往左往。
すると、
「うわっ、カラス!」
と、その部屋から女子と思われる比較的高い声が聞こえて、それと同時に窓もピシャリと閉じられてしまった。
「……絶望じゃね?」
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