...参...

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「何…それでは母上は、母上も…夜の神を斃すために、動いていたと?」 アザレイが驚くと、サレイは首を振った。 「アザレイ、これは間違えて欲しくないのだけど。ラインハルト様は後継者が現れて自分を管理者の座から降ろすか、森で全てを覆い尽くすか、どちらかが良いと思っていらっしゃるわ。私はラインハルト様にお仕えする者、どちらに転んでも良い様に動く必要があった。皆が私の言動を、世界が終わる様に動いていると見るのも仕方無いわ、半分正解だったのだもの」 「成る程、それで僕等を窮地に追い込む様なやり口で、成長を促していた訳ですね…」 セルシアが嫌そうな顔をしてサレイを見る。シオンはセルシアを睨んだが、サレイは気にもかけなかった。 「そうね。そしてアザレイ、後継者作りにはアザレイの考えている様な三神を揃えるだけでは駄目よ。それはね、もう過去にラインハルト様が試した方法なの。あの方は三神を集め、自身の力を分け与えて、後継者を作ろうとした。でも、それはバラバラに砕けて一つに固まらなかった。その砕けたものが、今の〈卵〉と七神剣なのよ。  ラインハルト様はそれぞれが地に混ざり、根付き、育つことでこの次元と親和性を持ち、次こそ正しくこの次元の後継者のパーツとなるのではないかとお考えよ。〈卵〉と七神剣が再び揃うこと。これこそが、あの方を再び命の巡りの環に戻す術になる筈なの。」 「筈、で動いて、失敗したらどうなる。後継者が出来なかったら?神は再び失望し、森を加速させるだろう。その時…母上、貴女は?」 「その時は、ラインハルト様の意に沿うわ。」 「なら、神が希望する完璧な後継者など必要ない。神としての力を持つ別のモノを用意すれば良い。それでは不足だと言うなら俺が神を斃す」 「アザレイ。ダークラーと契約していることで貴方は自身の力を過信しているわ。死の剣すら、ラインハルト様から生まれたものだと忘れたの?貴方では勝てないのよ。私達は短命種。長命種との間には、星よりも遠い力の差の隔たりがあるの。しかも貴方は転生前の長命種であった頃、既に一度彼に敗北している。一人では勝てないということを二度も経験する無駄は止めなさい」 「…母上?貴女は一体誰で、何を…見てきたのですか。」 アザレイは、母が何を言っているのか全く分からなくなってしまった。既に一度敗北している?転生前に?もしそれが真実だとして、何故母はそれを知っているのだ? 戸惑う息子に、サレイは寂しそうに微笑んだ。 「私は、私に力と記憶を与えるのは、かつて星の端末だった者。名をリン/ウェル。旧世界にて、ラインハルト様と契約する精霊だった者。彼と共に世界の終焉を一度見た者。貴方達英の末路を見届けた者。そして今はラインハルト様の計画に介入し、命の巡りに干渉し、あり得た未来を次こそはと願う女」 彼女はそこで、泣いていた。私は間違えたと泣いていた。あの時契約していなければ、あの時正しく導けていれば、彼は純粋な美の神のままでいられた。しかし、私は間違えてしまった。美の神は死の神になってしまった。それは彼の大切な人がそう望んだからで。そこでも私は間違えた。ただ生きているだけで幸せだった頃の彼等を返して欲しい。全てが美しく正しく治まった未来がある筈だ。 「…私のことは、どうだっていいのです。話の本筋には関係ない。少しばかり訳知りの女が、少しばかり計画に噛んでいるから、それを利用して貴方達はあの方を止めてくれればそれで良い。さあ、七神剣よ、再び集いなさい。今のこの場はイグラスに非ず。私が貴方達を癒やす為に用意した箱庭。癒えたならば飛び立ちなさい。本来あるべき場所に戻りなさい。そして正しく再び私の元を訪れるのです」 サレイが右手を差し伸べると、アザレイが消えた。左手を差し伸べると、セルシアが消えた。シオンがサレイの右手を取る。 『サレイ。貴女は、今度こそ上手く行くと思いますか?』 コトノ主が尋ねる。サレイは静かに首を振った。 「…願うことしか出来ないわ。」 .
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