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「ねえ」
「おわっ!?」
突然自分のすぐ隣で声がして、レオンは仰け反った。少女が真横まで一瞬で移動していたのだ。
「お前…誰?」
レオンは少し身構えながら少女に相対する。少女はレオンの警戒を気にするでもなく、
「私はサンリア、十三歳。貴方は?」
とさらっと答えた。
「お、俺、俺はレオンだよ」
吃(ども)ってしまった、と彼は軽く恥じ入る。
少女サンリアは暫しレオンの言葉の続きを待った。小首を傾げつつじっと相手の顔を見ている姿は、正直に言おう、実に愛らしい。
「…年は?貴方、幾つ?」
(年?)
先程心の中で断言した内容について少し後ろめたさもあり、レオンは慌てた。
(俺って幾つだ?)
「わす…いや、十五歳…だったと思う」
「って、自分の年を忘れるかなぁ!?」
(悪いかよ。)
ちょっと腹が立つ言い方だ。
「でも、十五にしちゃ子供っぽいのね…」
(てめーに言われたかねーや!)
レオンは片眉を上げ、心の中だけで毒づいた。初対面の、正真正銘の子供に馬鹿にされる謂れはない。子供だからなのか、相手への敬意も無く絡んでくるので印象は悪く、もうこいつの事絶対に可愛いなんて思わないようにしよう、と心に決める。
「…何か用?」
話し方まで素っ気なくなってしまう。少女は我に返った様に瞬きしながら、少し困った顔をした。
「あー、えっと。貴方が抜いたって言うなら、この剣、持ってちょうだい」
ずい、と柄を向けて渡されたので、レオンはそれを掴んで受け取った。
「…その剣、持てるんだ…」
サンリアが瞠目する。
「あぁ、軽いぜ?お前のその風車の方が重そうだ」
レオンはサンリアが背負っている大きな杖に目を遣った。よく見れば風車の羽だと思ったそれは、ギザギザとしたノコギリ鎌状の四枚の鋭利な刃だった。
「ううん、違う意味で私は持てないの。柄を握ると目の前が真っ白になるから」
「はぁ?でも此処まで運んで来たじゃ…」
「鞘に入れて運んだから」
「…そういえば、鞘どこにあったんだ?」
「私が作ったのよ」
「早!?」
「一週間前に始めたし」
「でもサイズぴったり…どうやって合わせた?」
「その革はある程度伸縮自在なの。それにじーちゃんが教えてくれたしね」
「じーちゃん?」
「このフクロウよ」
サンリアは肩に乗ったフクロウを撫でた。フクロウは目を細めてホーッと鳴いた。フクロウが教える?意味が分からない。
「私はね、違う世界から来たのよ。世界は森で繋がってるの。で、多分貴方に会いに来た。詳しくはじーちゃんに聞いてよね。私は上辺だけしか知らないから」
サンリアはまた一瞬で近くの木の枝まで飛び上がり、そこに腰掛け足をぶらぶらさせている。
スパッツか。慌ててレオンは目を逸らしたが、その赤い色が妙に脳裏に焼き付いた。
貴方に会いに来た…軽く発せられたその言葉が、ジワジワと彼の胸を打つ。
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