...参...

4/10

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
セルシアは自身が柔らかい寝台の様なものに横になっていることに気付いた。幌の中ではない。木の天井だ。木?砂の世界では、ないのか? 「…ここ、は」 「あっお兄ちゃん起きたのね!おはよー!」 セルシアは起き上がろうとして左腕に体重を掛ける。そこでしまった、骨が折れてるんだった、と思ったが何事もなく起き上がることが出来た。腕も、脚も、正しく動く。痛くない。 目の前にいるのは狐色の髪の女の子。十歳、には達していないだろうか。 「…おはようございます。僕と貴女はどうして此処に?」 「ママが連れてきたのよ、お兄ちゃん…あっ、お兄ちゃんじゃなくて、私のホントのお兄ちゃんの方ね。お兄ちゃんと一緒に、二人とも治療が必要だから、って。お兄ちゃんの犬さんはお兄ちゃんと…あーんもう!お兄ちゃん、お名前教えて!」 「セルシア、です」 「セルシアお兄ちゃんね!ありがとう!」 少女は嬉しそうに笑った。セルシアもつられて微笑む。 「セルシアお兄ちゃんの黒い犬さんは、今はアザレイお兄ちゃんと一緒にお庭で犬小屋作ってるよ!」 セルシアから笑顔が拭い取られた。 少女の名前はカレンと言った。アザレイの妹であるならば、カレンは大魔導師サレイの娘ということになる。歳は八つらしい。セルシアお兄ちゃんにそっくりな子が友達にいるのだと言うのでウルスラではないか?と尋ねると、とても驚いていた様だった。そして、折角だからウルスラ呼んでくる!待ってて!と彼女は出て行った。 暫くして、アザレイが部屋に入ってきた。 「…存外、大人しくしているのだな」 「カレンちゃんと約束しましたので。待っているだけです」 「知っているか。あいつは、レオンの妹でもある」 「そうなんですね。生き別れの兄を殺そうとしたことは、教えてやらないんですか?」 「……俺は常に最善を取る。レオンの存在など、どうあってもカレンにとっては端からノイズでしかない」 「身内には、お優しいんですね」 「お前も、身内には随分と甘い様だったが?」 「…少しばかり、優しい夢を見ていただけですよ。僕の帰る場所ははっきりしています」 「帰る場所、か…。同じ事をサンリアも言っていた。たった半年と少し共に過ごしただけで、そうも思えるものなのか」 「心を通わせるのに時間など関係ないんですよ。分かりませんか」 「いや……少し分かる、気がする。」 アザレイはサンリアと過ごした三日間を思い返していた。心に強烈に刻み込まれている。少し事情を説明しただけで、彼女は深い洞察を見せ、仲間になれないか、と尋ねてきた。あのまま対話を続けていると、自身の決意まで揺らぎそうだった。 「おや、貴方。恋をしていますね」 「…殺されたいのか」 「仕方ない、僕には聴こえちゃうんですよ。呼気の乱れ、鼓動の高鳴り。声の微かな揺らぎ。音の剣を持っていなくても分かりますからね」 自慢気な顔をしてみせるセルシア。アザレイは取り合わず、真面目な顔で目の前の男と向き合う。 「……音の剣が、今でも欲しいか」 「オルファリコンが無くたって、僕は帰りますよ。約束しましたので」 「そうか。…音の剣を持たないお前は無害だ。だが、放置すれば音の剣を再び手にすることになる。今、ここで両腕を奪っておくか?」 「発想がもう修羅のそれなんですが。やめて下さいよ、まだすぐ帰るとは言ってないじゃないですか…。折角だから数日ばかり、イグラスを観光させて下さい。僕は今は一介の吟遊詩人、こんなチャンス逃すつもりなんか更々無いですからね!」 セルシアはアザレイの案内で庭に出た。霧が深いからか、薄暗い。庭には馬小屋よりも大きい犬小屋を建ててもらって満足そうなテテが座っていた。とは言え、テテ自体今や馬ほどの大きさなのだ。それに付き合うアザレイは、律儀というか何というか。テテはアザレイにも嬉しそうに尾を振り、セルシアを視認すると彼に飛びついた。 「アザレイ君。テテに家を建ててくれてありがとうございます」 「こうしないと家の扉を壊してでも中に入りそうだったんだ」 「テテは寂しがり屋ですからね…」 セルシアがテテを撫でると、テテは待ってたわとばかりに鳥に変化した。 「おお、テテも二次成長したんですね!凄い、よく頑張ったね」 もっと褒めて!とテテがセルシアに擦り寄る。 「あのデカい鳥達も全部そうやって変化していたものだったのか…」 アザレイは初めて知る玉犬の神秘に素直に目を見張っていた。 .
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加