...壱...

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剣を見下ろす位置まで来ると、流石に触ってみたい欲が出てくる。 (ちょっとでも動くかなぁ?勇者のみが抜くことが出来る選定の剣…なんちゃって) そう思いつつ柄を握り、力を入れる。すると… キュ…スポッ… 「……。」 何とも呆気なかった。十五歳が軽く力を入れただけで剣が抜けたのだ。その余りの唐突さに、少年はただ呆然と剣を見ているだけであった。 と、急に辺りを静けさが包んだ。ついさっきまで聞こえていた、鳥の声や木々のざわめきも止んでいる。 訝しむ少年の頭上から、突然声が降ってきた。 『レオン…』 「サレイ母さん!?」 少年の名を呼ぶ懐かしい母の声。何年経とうとも聞き間違えようがない。 『グラ……を…てて…』 「え?」 『旅立っ…はる……て…』 「聞こえないよ!!」 『……』 声は沈黙してしまった。そうなると息を潜めて耳を澄ます彼に聞こえるのは、自分の鼓動と頭に血の流れる音だけだ。 「…ねぇ!」 彼は沈黙に耐え切れず呼びかけた。すると、全く異なる無機質な声が、今度は剣から返ってきた。 『…マダ…タリナイ…』 「は?」 『ナラバ…』 「何?待った!」 『シンジツ…ヲ…ミセヨウ……』 「無視するなぁ!真実って何だよ!?」 だが、声はもう聞こえなかった。 ドッ とレオン少年の耳に、今まで聞こえなかった森の合奏が戻ってくる。 「なんなんだよな…?」 レオンはそう言いながら辺りを見回し、もう一度剣を見た。 どこにも飾りは無く、片手でも余裕で振り回せそうなくらいに軽いが、両手で持てば柄の長さもまるで自分に合わせたようにぴったりしている。 剣を前に傾けてみた。太陽の光が剣に反射して、キラキラと輝き淡い金色の光を発している。 「わぁ…」 その神々しいまでに純白な剣に、彼は見とれてしまった。でも、さすがに町中をこの剣を持って歩くわけにはいかない。ここに置いて帰るしかなさそうだ。 老樹に立て掛けては写真を撮り、地面に寝かせては写真を撮る。確かにここにうつくしいものがあったのだと、証明するための行為だった。 .
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