...壱...

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森を出て、神社の境内へ。レオンが先程までいた森は、彼と兄が二人で暮らすアパートからほど近い、この寂れた神社の周囲に広がっている。レオンはこの森が大好きで、小さい頃からよくここへ来ていたのだ。 たまに今日のように森へ兄のカメラを持ち出しては、撮影した写真をSNSにアップする。最近は何故かそこそこ評判が良く、SNSのフォロワーは千人を超えている。グッズや展示の話などはまだ来たことがないが、ゆくゆくは写真で食べていけたらな、なんて考えたりもする。勿論、写真のために大学で勉強したい、なんて殊勝な考えには至らない彼なのだが。 しかし、兄のシオンはこの森の良さを知らない様だった。神社の裏に雑木林はあるが、森と呼べるようなものでもないだろ、という印象らしい。すぐ近くなのに…、とレオンは不思議がったものだ。 レオンは昼食をとりに帰宅した。 「おう、お帰り」 玄関ではシオンが床掃除していた。丁寧に上から順番に掃除する彼なので、きっと仕上げの段階なのだろう。 「ただいま。昼飯なに?」 「お前なぁ、たまには手伝えよ…。昨日の残りのミネストローネと、サンドイッチと、鶏ハムがそろそろヤバいからチキンシーザーサラダ作っといた」 手伝う余地がない。流石万能の兄である。 「シオンは良い旦那さんになるな」 「任せろ。いつ彼女に婿養子に呼ばれても大丈夫だ。ま、手の掛かる〈弟〉がいなけりゃの話だがな」 「えーっ、俺のせい?」 レオンが努めて明るく抗議すると、兄は笑いながら掃除道具を片付けに風呂場に向かった。 (……まあ、俺のせい、だよな) レオンは玄関の鏡に映る、所在なげにカメラを抱えた少年を軽く睨んでやった。 シオンは血も繋がっていない弟をこの九年間一人で面倒見てくれている自慢の兄だ。血も繋がっていないというのも、二人の両親は再婚だからだ。彼らはレオン三歳、シオン九歳の時に結婚した。 それからの三年間は、まるで夢の様な毎日だった。両親とも二人の息子に分け隔てなく接し、兄もレオンの面倒をよく見てくれた。 毎週日曜日には決まって一家で遊びに出掛けた。レオンは海で泳ぐのと、森で虫捕りをするのが大好きだった。 そして、レオン六歳の時──。 家族が増えた。妹が出来たのだ。 その日、つまり母の出産予定日、父はいつになくそわそわしていた。 母が「お腹が痛い」と言い出すと、父は跳び上がって喜んだ後、すぐさま病院へ連れていった。子供達は寝る時間だった為に、家で待機。だが、お守り役に父の姉、つまり叔母が付いていてくれた。 次の日の未明だった。 一人の男が家までやって来て、無表情にこう告げた。 「報告します。カオン殿ご夫妻、…昨夜の火事にて焼死されました。…ご愁傷様でした」 .
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