...壱...

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レオンは兄の様子を見て、自分がやらかしたことに気付いた。 「…今のは笑えない冗談だな、レオン」 「違う、違うんだシオン、冗談言いたくて嘘付いたんじゃない…」 「ふーん。まあ、夢で会えただけでも良かったな」 「う……」 夢じゃなかった筈なのに、本当に手に取り声を聞いた筈なのに、それ以上主張出来る雰囲気ではなかった。 「…俺、昼からもっかい見に行ってくる」 「良いぞ、俺は掃除の後彼女のとこ行ってくるから」 「分かった…」 シオンは今の彼女ともう二年近く付き合っているらしい。 兄がいないと生きていけない、という訳ではない。と思う。 明日から結婚して家を出ていくから、と言われても大丈夫な心構えは出来ている。 しかし、この家に二人で住んでいる限りは、兄に見放されるわけにはいかなかった。お前が出て行けと言われたら、レオンは途端に途方に暮れる羽目になる。兄は優しいから、滅多なことでそんな流れにはならないと思うが… (サレイ母さんの話は危なかった) レオンは再び靴を履きながら、ふぅーっと長い溜息をついた。 森の木々に付けた目印は回収していなかったので、彼は迷うことなく歩き続けた。 やがて老樹が見えてくる。その根元に、あの白い剣を放置して帰ったはずだ。 レオンはふと立ち止まった。 (……誰か、いる) 華の様な橙色の髪と朱い額当てに羽根飾り、黒目九割の可愛らしい顔立ち。所々に鮮やかな朱と黄色のラインが入った白いワンピース。レオンと同い年か、もう少し年下に見える少女が、老樹にもたれかかり、肩にフクロウを乗せ、背中に巨大な風車を背負い、何か大きなものを抱えている。 レオンは咄嗟にカメラを探した。しかし、剣の様子の確認だけだと思っていたので、今度は持参していなかった。それに、勝手に撮るのは良くない。撮影交渉から入るべきだし、そのために女の子に声を掛けるのは…レオンには、無理だった。 少女の方がレオンに気付く。目が合った。 「こんにちは、そこの貴方」 少女が甘やかな声でレオンに声を掛ける。 「おっ、お俺?…ちは…」 「ねえ、この剣を抜いたのは貴方?」 彼女が抱えている物を突き出した。それはいつの間にか鞘に入っているが、間違いなくレオンが朝、抜いて写真を撮ろうとした剣だった。 「そうだけど…」 レオンが答えると、少女は突然、消えた。 .
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