19人が本棚に入れています
本棚に追加
レオンは兄の様子を見て、自分がやらかしたことに気付いた。
「…今のは笑えない冗談だな、レオン」
「違う、違うんだシオン、冗談言いたくて嘘付いたんじゃない…」
「ふーん。まあ、夢で会えただけでも良かったな」
「う……」
夢じゃなかった筈なのに、本当に手に取り声を聞いた筈なのに、それ以上主張出来る雰囲気ではなかった。
「…俺、昼からもっかい見に行ってくる」
「良いぞ、俺は掃除の後彼女のとこ行ってくるから」
「分かった…」
シオンは今の彼女ともう二年近く付き合っているらしい。
兄がいないと生きていけない、という訳ではない。と思う。
明日から結婚して家を出ていくから、と言われても大丈夫な心構えは出来ている。
しかし、この家に二人で住んでいる限りは、兄に見放されるわけにはいかなかった。お前が出て行けと言われたら、レオンは途端に途方に暮れる羽目になる。兄は優しいから、滅多なことでそんな流れにはならないと思うが…
(サレイ母さんの話は危なかった)
レオンは再び靴を履きながら、ふぅーっと長い溜息をついた。
森の木々に付けた目印は回収していなかったので、彼は迷うことなく歩き続けた。
やがて老樹が見えてくる。その根元に、あの白い剣を放置して帰ったはずだ。
レオンはふと立ち止まった。
(……誰か、いる)
華の様な橙色の髪と朱い額当てに羽根飾り、黒目九割の可愛らしい顔立ち。所々に鮮やかな朱と黄色のラインが入った白いワンピース。レオンと同い年か、もう少し年下に見える少女が、老樹にもたれかかり、肩にフクロウを乗せ、背中に巨大な風車を背負い、何か大きなものを抱えている。
レオンは咄嗟にカメラを探した。しかし、剣の様子の確認だけだと思っていたので、今度は持参していなかった。それに、勝手に撮るのは良くない。撮影交渉から入るべきだし、そのために女の子に声を掛けるのは…レオンには、無理だった。
少女の方がレオンに気付く。目が合った。
「こんにちは、そこの貴方」
少女が甘やかな声でレオンに声を掛ける。
「おっ、お俺?…ちは…」
「ねえ、この剣を抜いたのは貴方?」
彼女が抱えている物を突き出した。それはいつの間にか鞘に入っているが、間違いなくレオンが朝、抜いて写真を撮ろうとした剣だった。
「そうだけど…」
レオンが答えると、少女は突然、消えた。
.
最初のコメントを投稿しよう!