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夜を、恐ろしいと思った事がある。
何処までも広がる群青色の空を、身震いする程恐れた事がある。
このまま朝がこなかったらどうしよう・・・と、ありもしない事を心配して。
まるで、空が落ちてきたらどうしようと心配して心を病んでしまった杞憂物語の主人公の様に、私はまた、今日も空を見上げる。
空は、あまり好きではない。
広くて・・・広すぎて。
いつか本当に、全てを飲み込んでしまうのではないかと思った。
そんな私に、母はよく言っていた。
世界には、太陽を見たくても見れない人間だっているのだ、と。
だから、そんな贅沢な悩みを口にしてはいけない・・・と。
まさか、そんな人間がいる筈がない。
幼い私は、いつだって胸を張ってそう返した。
太陽は、何処にいたって平等に、光り輝くのだ、と。
そんな時、母は決まって、何処か遠くを見る様に目を細めた。
今思えば、母は知っていたのだ。
“本当”に、太陽を見る事が出来ない世界が、この國には存在するという事を。
知っていたのだ。
残酷な実験を強いられた者達が、確かにソコに、生きている事を。
ねぇ、母さん。
今なら私にも、あの時の母さんの、泣き出しそうな顔の理由がわかる気がするよ。
あの表情の理由は・・・
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