《生きていてくれるだけで》

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《生きていてくれるだけで》

この世に生まれ出でて僅か数ヶ月。 小さな、小さな、小さなその体中は機械に繋がれ、繋がれ、繋がれ、その小さな体を機械に託している。 その小さな胸は開かれたままで、臓器は見えたまま。まるで映画の中の話のよう。 でも間違いなくそこで『闘って』いるのは愛しい、愛しい、愛しい我が子。 抱き上げる事も出来なければ抱き締める事も出来ない。 ただ頬を擦り小さな手を握り締め、額にキスをしてやれるだけ。 子は胸を開かれ親は胸を張り裂かれ、それでも『闘って』いる。 小さな、小さな、小さな体に宿った、大きな、大きな、大きな『命』の為に。 ただそこに居てくれるだけで 目を開けているだけで 笑っているだけで 元気にご飯を食べているだけで 声を出しているだけで 『お母さん』と呼んでくれるだけで 二本の足で立っているだけで 手を動かせるだけで その名を呼んで振り返るだけで …生きていてくれるだけで… 幸せなんだと… 今更ながら気付かされた。
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