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私の一家は、ここに三年程住んだのだが、八人兄弟のうち、ここで生まれたのは私だけである。無論ここに住んでいた頃の記憶は無いが、唯一だけ夢のようにおぼろげな記憶らしいものがある。
後年、母の話で私が満一才の頃、坂道を這っていて大きな石を転がして右足の親指の爪を砕いてしまったそうだ。その時の激痛や母のうろたえた声は実におぼろげだが、横の木の枝に登っていた二人の子供が、じっとこちらを見ていたが、その子供が着ていたカスリの着物と驚いた表情が妙に焼き付いていて、今でもフッと、この情景を思い浮かべることがある。
現在も私の右足の親指には爪がなく、みっともない格好をしている。このような強烈な刺激を受けたため満一才という年齢でも、この時の記憶らしいものがあるのではなかろうかと思っている。それ以来、三~四才までの記憶は全く呼び戻すことはできない。
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