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部屋を飛び出したのはいいが、沙羅は行くあてがなかった。
少し考えて携帯を取り電話をかける。
『…沙羅か?』
『うん…』
低いトーンで話す相手は勇だった。
『今何処にいる?』
『3丁目のバス停…』
か細い声で、涙混じりに言葉を押し出す。
『今すぐ行くから、そこにいろ。』
そう言って勇は電話を切った。
切れた電話を持ったまま、バス停のベンチに腰を下ろした。
沙羅の脳裏には、先程の蓮との記憶と、勇との過去が交錯していた。
程なくして一台の車が、沙羅の前に止まった。
『沙羅。』
勇の聞き慣れた低い声が、何故か心地よかった。
勇は沙羅を助手席に乗せ、深夜の街道を走る。
『腹減ってないか?』
以前と変わらない優しい言葉。
『…食べたくない。』
ぽつり言葉を返した。
『お前まともに食べてんのか?痩せたぞ?』
沙羅は無言で首を横に振る。
勇はふぅ、とため息を漏らした。
そしてこう言った。
『俺のとこに戻って来るか?』
思いがけない勇の言葉に、沙羅は呆気に取られていた。
『戻って来ても、いいの…?』
恐る恐る聞いてみる。
『俺はお前を苦しめる為に、身を引いた訳じゃないからな。』
知らずに沙羅の瞳からは、涙が零れ落ちていた。
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