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刻が止まった。
そうでは無くむしろそう感じただけだった。
人々はその異様な光景に畏怖を抱き、戦慄に駆られ目を奪われたのである。
左右に軒を連ねるアーケード街に響く悲鳴。事態を飲み込み逃げ惑う人々。
誠司が見た光景は彼の日常を完全に崩壊させた。
「っ……! ぐ……ぅ」
既に血塗られた刃物を右手に持ち、世間に対する憤怒と殺めるという陶酔感に満ちた表情の中年男性が目先にいた。
腹部に感じる疼痛。患部を押さえれば目先に立つ男の刃物が纏う色と同色の紅が両手を包む。
言葉を発する間も無く誠司の意識は遠のき始めていた。傷は深く、夥しい血量が地面に広がる。
(あぁ、まさか、こんな、事に、なるなんて……)
身体から力が抜け始め砕けるように両膝が地につく。
(通り……魔なんて、僕に……関……ないと……思っ)
視界は闇色に覆われ、命の鼓動はその役目を終え、誠司の人生は終焉を迎えた。
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