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はずだった。誠司は自分でも自覚していた。
自身の命、唯一の存在の欠落を……だが自然と己が意識を確認出来た。自分は、
(いき、てる……?)
徐々に取り戻しつつある意識の中、瞼をゆっくりと開けてみる。
生きている?
それともあの世か?
ここは何処?
今、見えているのは普段眺めていた空と同じ空なのだろうか?
(起き上がろうにも、力が……)
幾重に飛び交う憶測の中なにかの気配を感じ首から先を動かし右を見た。
「よぉ、ようやくお目覚めか?」
朦朧としていた意識が瞬時に覚醒する。その姿、異様な着衣、そして声の主が発する雰囲気が常人では無いのを表しているのだ。
「ほれ、さっさと目ぇ覚ませや」
「うっ!……っ、痛っ!」
患部の痛みが誠司の意識をより鮮明にさせ生の実感を与える。
再び声の主を見る。上下、質の良い黒のスーツと薄手のロングコートを纏い、表情を覆い隠すほど目深に被ったフェルトハット。
胸元には血の紅を連想させるネクタイ。その口元は微かに微笑む。
誠司は自身の置かれた状況を今知った。
その声の主の男に横になった状態で抱えられ宙に浮いているのだ。
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