十二月二十四日。-死別-

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雪は黒い空から光の粒のように、地上へと降りていく。 それはまるで、神話の世界のように幻想的な風景。 でもその美しさすらも、今の俺には彼女の死を祝う、非情な天使達の葬列に見えた。 「クル、ギ……」 名を呼ばれ腕の中の少女に視線を落とす。 切り裂かれた左胸からは夥しい量の血が流れ、彼女も俺も積もった雪も真っ赤だった。 それでもこの少女の生命が尽きないのは、彼女に植え付けられた力のせいだ。 逆に言えば、まだ彼女は助かる。 まだ力が生きているなら彼女が死ぬことはない。 今ここで手を下さない限りは。 「ねぇ、クルギ……」 冷え切った手が頬に触れる。 少しでも暖かくなればいいと、その手を握った。 すると彼女は安心したような顔をして 「殺して…………」 と、そう言った。 「クルギも、わかってるでしょ? ……私は、生きてちゃいけないんだよ」 見る者の心を刔る悲痛な笑顔。 その頬を流れる涙を見ていた。 覚悟ならずっと前にしていた筈なのに、手の震えは止まってはくれない。 「……ねぇクルギ、早く……傷が塞がっちゃうよ……」 一言。彼女が一言「死にたくない」と言ってくれればこの震えも止まるのに。 でも本当はわかっていた。 結局は変わらないことも。 今ここで彼女を殺さなくても、あの暗い実験室で物同然に壊されて、独りで逝くんだろうということが。 これから先彼女を守り通そうとしても、そう遠くない未来、彼女は死んでしまうということが。 それならば、せめて。 「……お願い、クルギ」 ――死ぬのならせめて、貴方の手で――。 震えは止めた。 冷たい指を、彼女の開いた胸に突き立てる。 鼓動が、指先に触れた。
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