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実津屋に戻ると女将さんが待っていた。
「おかえり、音霧。」
人斬りは音霧として生きている。
「……」
音霧は何も言わず部屋へと戻った。女将もいつものことらしく気に留めなかった。
音霧は実津屋で暮らしている。
人斬り家業は女将さんも知っている。
大刀の手入れをして床下にしまう。
大刀を持ち歩くのは不便なため小刀は常備している。
今日の依頼主を思い浮かべる。
あいつを知っている。
声でわかる。
どこで聞きつけたのだろうか。
偶然か…必然か…。
向こうには顔を見せなかったからバレてはいないだろう。
「……あいつがいるってことは……。
攘夷やら佐幕やら…きな臭くなりそうだ」
音霧の喋り方は男のよう。
声も女にしては低い。
故に人斬り闇音は男と思われがちだ。
女と知っているのは依頼主のみ。だがその情報を漏らそうものなら命はないのだ。
幼き頃の知り合いが現れたことに音霧は昔のことを思い出す。
楽しかったあのころと今は違う。ギリッと唇を噛むと口内に鉄の味が広がる。
それと共に手も握っていたらしい。手からもわずかに血が流れた。
ふいに天井から気配。
「真風(マフウ)どうした?」
天井にいる忍に聞く。
真風は音霧付きの忍であるスッ…
静かに下りてきた
「唇切れてます、手も…」
そう言って真風は音霧の手を取り…傷口を、舐めた。
「真風、何をしている?」
少しばかり、いや全く真風の思考が読めない。
真風とはそんなに長い付き合いではない音霧も真風が世間知らずなのは理解した
「……傷は舐めると良いと聞きましたが違いましたか?」
本気で聞いているのかと問いたくなる。
しかしこれが真風の素だ。
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