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<ゼロッ!早く帰ってきてよ!!明日の為の最終調整、残ってんだからね!!>
「うわ!?」
さらに、虚空にビジョンが浮かび上がる。
ノイズが走っていてその姿をうかがうことは出来ない。
だが、先ほどのオペレーターとは明らかに違う、元気にあふれた声が流れる。
ゼロには、その声に心当たりがあった。
「ミズキ…何度も言ってるだろう!軍用回線をハッキングするのはやめろって!」
ふう、と盛大にため息を吐きながら言うゼロ。
ノイズが走っているのは、ハッキングによる通信だかららしい。
「エル伍長、軍用回線の書き換えはしておいたのか?」
ゼロの言葉に、先ほどの女性オペレーター、エルが答える。
<は、はぁ…そのはずなんですが>
<にっひっひ…あれじゃあ隠してる内に入らないよ~だ>
悪戯子悪魔のごとく、にっしっしと笑うミズキ。
それもいつもの事だった。
エルも優秀なオペレーターだ。
仕事を頼まれて途中で投げ出したままにするはずも無いし、適当な仕事をするはずも無いのだが、
だがゼロはつい、そう聞きたくなってしまうような心境だった。
<まあ~いいんじゃな~い?戦時中じゃああるまいし~?>
「ダイアス准将!!准将がそんな事でどうするんですか!!」
通信に割り込んできたのは、火星軍西方面指揮官、ゼロ達の上官であるダイアスだった。
立派な白ひげを蓄えた、人のよさそうな老人だ。
<准将~!『明日の件』ありがとうございます!>
<はっはっは、何、ほかならぬ君の頼みだからねえ>
ハッキングを仕掛けてきている少女に対して、ダイアスは怒りなど微塵にも感じていないらしい。
<准将。鼻の下が伸びておられますよ>
<…ウオッホン。まあ『君らが造った機体』というのも非常に興味深い事だしな>
<そちらがついで、みたいな口調ですね>
<エル君、今日はいつになく厳しいツッコミだね>
「…」
ゼロは先ほどよりも、更に大きくため息をついた。
准将は普段から、あの砕けた態度を崩した試しがない。
タメ口に近いゼロ達の言葉にも、何ら注意されることはないのだった。
とはいえ、彼が今の地位を築いたのは事実であり、彼の事を誰もが一目置いているのは間違いなかった。
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