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俺は嘘をつこうかと一瞬頭に過ぎったが、嘘をついても仕方がないと思い、一つだけ間を空けて本名を言った。
「俺は我妻圭悟(あがつまけいご)だ」
「アガツマケイゴ…?変な名前ね。ケイゴはどうしてこの森に居るの?」
「……知らねーよ」
人の名前を不躾に変だと言った割には馴れ馴れしく名前を呼ぶ彼女――シルビアだがここはあえて気力がないので突っ込まない事にする。
「言っておくけどここは屍(グール)の森。能力(アビリティ)を持たないただの人間は襲われたら一発でおだぶつよ」
「アビリティ…?グール…?」
ここに来て初めて日常世界では聞かない単語が飛び出た。「アビリティ」?「グール」?よくゲームとかに出てくる単語やモンスターか?アビリティの意味は能力だよな…。グールの意味は……。
屍だったか。
つーことは、屍→死体→死体の森…。
「一つ聞いて良いか?」
「ん、なに?」
「この森は墓場か?それとも死体をたくさん出すほどの奴がいるってことか?」
「んーどっちかと言えば後の方かな」
……え?
ちょっと待て、それはヤバくないか?
俺は丸腰だし体術も何も使えない。
ということは…オダブツ?
「森の出口を教えてく―――」
言葉を切ったのはタンが喉に詰まったからではない。
目の前になんか映画で見たことがあるようなでかい熊が現れたからだ。
ツキノワグマもびっくりのでかさである。
シルビアの方もいきなりのことに言葉も出ていなかった。
熊が鉤爪を振り上げたときだった。
「参式、暗刀刹…」
熊の胴体が真っ二つに斬れ、鮮血が飛び出た。
「だ、だれ?」
シルビアが声を放ち、俺はハッとした。
「私の名前は司波 将(しばしょう)です。敵対心はありません」
その眼鏡を掛けた男性は日本刀を納めた。
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