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それから暫く経ってのこと。眠る少年を眺めていたアズールは、いつの間にか自分自身も夢の世界へと招かれていた。ベッドに両腕を乗せ枕代わりにすれば、そこに頭を乗せる。いささか寝づらい体勢であるため、眠り自体は浅いものだった。
その証拠に、アズールは夢を見ていた。それも普通の夢ではない。定期的に見る、毎回同じ場所、同じ登場人物の、不思議な夢。
場所は、どこだかわからない。真っ暗な空間に、ポツンとアズールは立っている。右も左も、前も後ろも、真っ暗。そんな空間に、もう1人誰かいる。
それは、泣いていた。小さくうずくまり、泣いていた。届くはずない、そうわかっていながらも、アズールはつい手を伸ばしてしまう。すると、決まったタイミングで泣いているその人は顔を上げるのだ。
それは、少女だった。ショートカットヘアーで、色はこの空間に溶けてしまうくらいに真っ黒。大粒の涙を溜めているその瞳は、左右とも違う色をしており。黒曜石と翡翠を嵌め込んだような鮮やかな色を放つ瞳は、とても魅力的だった。
そこで、夢はいつも途切れる。今回も例外なく、その少女に声を掛ける前にアズールは目を覚ました。ベッドが、モゾモゾと動く気配を感じ取ったのだ。
自分が眠っていたことに気づき、慌てて飛び起きるアズール。夢のことについては、鬱陶しいとばかりに微かに表情を浮かべた。が、そんな表情はすぐに消え失せる。
「……あぁ、よかった。気がついたんだな」
一足先に起き上がっていた少年に、アズールは安堵の息を吐いた。すると、若草色の髪がふわりと揺れて、少年はアズールの方へ振り向く。彼の、髪よりも深い翠の瞳が僅かに揺れた。
「あの……すみません、起こしてしまいましたね」
「いや、いいんだ。俺が勝手に寝ちまったんだ……どうだ、気分は悪くないか?」
「えぇ、大丈夫です。……すみせん」
謝罪の言葉を告げる度、少年は軽く頭を下げる。どこか、思い詰めたような瞳で。そんな重苦しい空気に、アズールは居心地の悪さを覚えた。一刻も早く、この場から去りたい。
そう思い、彼は腰を上げた。が、部屋から出ることはなかった。少年の手が、アズールの服の袖を掴み引き留めるのだ。
不思議に思い、アズールは少年の顔を覗き込む。
その表情を見て、アズールは再び腰を下ろした。
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