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「待ってください」
士郎達が少女と剣士の脇を抜けると同時に、少女は三人を呼び止めた。
「確かに第五次で聖杯戦争は終結していたようですね。ですがその手の令呪は何ですか?」
「……っ」
少女は幽鬼を思わせる悲壮さを漂わせながら立ち上がる。
その顔とは裏腹に、声は元の平静さを取り戻していた。
「セイバーをこの目で見ることが出来たのは非常に嬉しいです。正確な能力分析が出来ますから」
傍らの剣士が再び剣を構える。その身に刻まれていた傷は影も形もなくなっていた。
「互いにサーヴァントが出揃いました。仕切りなおしと行きましょう、『第六次聖杯戦争』を」
「シロウ、下がってっ」
士郎の前に出て構えるセイバー。そのやや斜め後ろに凛が陣取っていた。
「サーヴァントの相手は任せたわよ、セイバー」
「ええ。マスターの方は頼みます、凛」
「士郎、準備はいい?」
「あ、ああ」
衛宮士郎の絶対にして唯一最強の、ある種呪いとも取れる魔術。
その詠唱は他者に真似できても、そこに秘められた本質までは衛宮士郎以外に詠唱(ロード)することは出来ない。
シンプルに。全てを込めて。己の力を顕す。
「トレース、オン」
―全ては其処に在る―
眩い雷光のような魔力とエーテルの拡散が終わると、その手には二振りの剣が握られていた。
コントラストの刃。妻の犠牲が生み出した絆の夫婦剣。これから先も振るい続けた、一番、衛宮士郎の手に馴染む武器。
『干将・莫耶』
「準備OKだ、遠坂」
士郎の頭が戦いへの備えを完了した。
「手加減はしないでください。力量を見誤りますから」
「いい度胸ね。お望みどおり全力で叩き潰してあげるわ」
限界まで張り詰めた空気。
数秒しか経っていない時間が、薄く薄く引き延ばされ既に数時間が経過したような錯覚に陥る。
……ヒュィィ…………ィィイン――
空気を切り裂いたのは、一本の剣。
柄に「青紅」と彫られた両刃の剣。それこそは三国志の劉備軍勇将・趙雲が愛用した名剣『青紅剣』だった。
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