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「――神々の大海(スキーズブラズニル)――」
剣士が己の宝具の名を呼ぶと、彼を中心に小さな円が足元に浮かび上がり、その円のサイズに沿った薄く青み掛かった光の柱が二人を包んだ。
「次は必ず勝たせてもらう」
剣士はその言葉だけ置いて、光の柱とともにその姿を消した。
「……いったい、どうなってるんだ。また聖杯戦争が始まるだなんて」
「さぁね。今は情報が全く無いから考えても仕方ないわ。けれどもし本当に聖杯戦争が始まったんだとしたら、あの子を逃がしたのは痛手だけどね」
「でも」
「「人殺しをするために戦ってるわけじゃない」でしょ?分かってるわよ、そんなこと」
ふぅ、と大きな溜め息を吐いて凛は仕方なさそうに士郎を見遣った。
「アンタの性格はもう嫌というほど身に染みてるわよ。それより、早く行きましょ?いい加減士郎んちに行かないと藤村先生も桜も大泣きしてるかもしれないし」
「そ、そうだな……藤ねえに泣かれると何かと厄介だし……」
「先程シロウは久しぶりの我が家と言っていましたが、どこか別の場所に泊まっていたのですか?」
「ああ、ロンドンでちょっと修行中なんだ。まぁその話は、家でゆっくりするよ」
「シロウの成長ぶりを聞けるのですね。楽しみです」
先刻までの戦闘など微塵も感じさせない空気で、三人は衛宮邸へと急いでいった。
「神々の大海(スキーズブラズニル)、か……」
既に消え去った光の柱を見ながら、赤い弓兵は一人溜め息を吐く。
「厄介な敵が現れたものだな。加えて」
夜の帳に閉ざされた深山町を見回しやれやれと首を振ると弓兵は、己のマスターの元へとは向かわずその勘に任せて歩を進めた。
「馴染みの顔が揃い踏みか。以前よりも賑やかな戦場になりそうだ」
在り得なかった歯車が加わり、夜はまた動き出す。
過去の夜を塗りつぶしていくかのように。
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