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突然の戦闘から無事帰還し、懐かしの我が家で突然のゲストを招いての宴会。
虎は暴れて泣いて呑んで咆えての大騒ぎで士郎を困らせ果てた後、勝手に寝ていた。
「あー……頭痛いな」
宴会の主役であった士郎は、一夜明けた清々しい朝に重たい頭を持ってしまったことを多少後悔しながら、6、7人前の朝食を作っていた。
珍しく士郎の隣に桜の姿は無い。呑みすぎでダウン中なのだろう。
「味噌汁作るのも久しぶりだな」
「おはようございます、シロウ」
「お。匂いに釣られて起きてきたのか、セイバー」
虎との飲み比べで結構な量を飲んだはずのセイバーはいつも通りの静かな凛々しさを見せていた。
言うまでもないことだが飲み比べの勝者は当然セイバーだ。
「な、ち、違います!断じて美味しそうな匂いがして気付けば居間になんてことはありませんっ!」
「はははっ、悪かったよセイバー。おはよう」
ものすごい勢いで墓穴を掘ったセイバーとのやりとりに懐かしさを覚えながら、士郎は料理の仕上げに戻った。
「それにしても、全然はっきりしないな」
「新たな聖杯戦争のことですか?」
「ああ」
意味の分からない戦闘。前触れの無い戦争。新たなマスターとサーヴァント。
この冬木市の聖杯は既に存在しない。第五次聖杯戦争の結末は、衛宮士郎が聖杯を破壊するというものだった。
冬木に存在していた聖杯は「圧倒的で回避不能の暴力」。数多の幸福と引き換えに一つの望みに全力を懸ける。ある意味、幸福の詰まった福袋のようなものだったのかもしれない。封を開けたときに顔を見せるのが幸福とは限らないが。
だがその聖杯も既に存在しない。
士郎の記憶には第五次と今回の第六次の間に「第四次」が千切れて浮かんでいるが、絶対に繋がらない程くしゃくしゃでばらばらの断片しかなく軽い既視感にしかならない。バゼットに対してが特に顕著だ。
その第四次には聖杯が在ったような気がするが、第五次の記憶から考えればそれは無い。
つまり士郎は、聖杯が復活したという情報を耳にしたのは今回が「初めて」というわけだ。
「おはようございまぁす……ふあぁあ」
「おはようございます、桜」
「おはよう。まだ辛そうだな」
眉間にしわを寄せながらも「いえ、大丈夫です」と、だらしない姿を士郎に見せないよう頑張る桜。
その姿が逆に倦怠感を浮き立たせていた。
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