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改装が加わり一年前よりもさらに活気が溢れる、冬木市の新都にある大型デパート。
そこにはトラ縞マフラーを巻いた虎と、酒屋の仕事着スタイルで荷物持ちをさせられている猫が居た。
「ちょっと、アンタどれだけ買うつもりなのよっ」
「へ?」
「へ、じゃなくっ」
猫の両手は既に五つほどの買い物袋で塞がっている。
それを知ってか知らずか尚も物色を続ける虎。
「さすがにこれは買いすぎでしょうがっ」
「そんなことないわよぅ。だって今日は士郎と遠坂さんがロンドンから帰ってくるのよ?派手にパーティ開きたいじゃないっ」
虎は笑顔で鼻歌を歌い始め、物色を再開する。
「パーティって……そりゃ確かにエミヤんが帰ってくるのは嬉しいけど。ていうかその為に私に声掛けたのか、アンタ」
「パーティにお酒は必要でしょ?今日くらいは先生も未成年飲酒を許しますっ」
エッヘンと胸を張る虎を見て、猫は溜め息を吐くことしか出来なかった。
そもそもこの能天気虎が教師をやっている時点で不思議なのだが、今更そんなことを気にかけても現実はご覧の通り。
今現在フライパンやら包丁やらの品定めをしている猛獣が教師としてやっていけるとは、色んな意味ですごい世の中になったものだと感心すらしてしまう猫。
「……ん?包丁?……藤村」
「なに、ネコ?」
「まさかとは思うけど、アンタ……今日、自分で料理なんかしないわよね?」
「トーゼンっ」
「ほっ……それならエミヤんもあんし――」
「私が料理するわよっ!」
「ん、っておい!!」
むっふーと高らかに一つ鼻息を噴射するタイガー。
「アンタは旅行疲れのエミヤん達を殺す気か!」
「む、ちょっとー。何でそうなるのよー」
「何でも何もありますかって!アンタなんかに料理作らせるわけにはいかない……私が作りに行くからアンタはおとなしくしてなさいっ」
「いいわよ、私だって料理の一つや二つ作れるってば」
「アンタが作るのは死体だ!」
「むぅうーっ、いいのー!私が作るのー!!」
「のわ、ちょっ、いい大人が暴れるなぁっ!」
猛獣暴走。周りの視線は自然とこの二人で焦点が重なる。
「あの」
その喧騒の真横にいつの間にか白い髪の少女が立っていた。
虎が暴れ出したのはほんの数秒前。それまでの間にこの二人に近づいていたのかもしれない。
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