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少女の容貌は魅力的で且つ特異なもの。
十の半ばを過ぎたばかりの少女の容姿に似つかわしく無い白髪。
「外国人」と一目で分かるその顔立ち、瞳の色。
そこに辿り着くまでに周りの注目が集まらないことは無い。虎も猫も、ただそれに気付かなかっただけ。
本当にそうなら全て偶然で片付けられた。
少女の存在は今この瞬間まで、誰一人にも「認識」されていなかった。「居なかった」のだ。
「いーやー!わたしがつーくーるーのー!」
「だぁぁもおお、ちょっと落ち着きなさいってば!」
「あの」
「士郎のご飯は私が――むぐっ」
「あ、ごめんなさいね。こいつが喧しくて」
「いえ。衛宮さんのお宅がどこにあるかご存知有りませんか?」
少女の日本語は日本人の使うそれと全く同じ、それでいて綺麗に響く流暢な言葉だった。
「エミヤんち?知ってるけど……藤村、アンタの知り合い?」
「むぐ?んーん」
「ふーん。あ、ごめんね。今エミヤんちに行っても誰も」
猫が振り返った先に少女の姿は無く、見えているのはこちらを見る人だかりだけだった。
「あ、れ……?」
「ぷは。今の子、何の用だったのかしら」
「さあ」
猫にはあの少女が突然現れたこと、その容姿、流暢な日本語、それらのことよりも一つのことが気に掛かっていた。
「あの子……どうしてわざわざ、これだけバカ騒ぎしてる二人にエミヤんちを聞いたのかしらね……」
既に居た痕跡は残り香すらも無い少女の背を幻に、猫は呟いた。
物語の歯車は一つ目が回りだしただけ。
歯車が一つしか回らない絡繰は不協和音を立てることしか知らない。
物語は始まったばかり。
だが不協和音は必ず、幻惑な音色を奏でて終わりを告げる。
時間は流れて20時。深山町、バス停。
「やっと着いた……藤ねえ、怒ってそうだな」
「むしろ暴れてるかもしれないわね……早く行きましょう、士郎」
「ああ」
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