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ロンドン帰りの二人は予定から二時間遅れで深山町に着いていた。
何故予定から二時間も遅れたのか。
「まさか日頃の寝不足が祟って、乗るバスを間違えるなんてね……消し去りたい失態だわ」
「しかも二人ともバスの中で寝こけて終点まで行ったからな」
飛行機に乗る前日。
一年経っても相変わらず基礎が三流以下の士郎を特訓するという日課を、いつも通りにこなしていた。
せめて前日だけでも休めば良かったものを、遠坂嬢のスパルタは止まる事を知らなかったわけである。
「何も前日までやることもなかっただろうに」
「う、うるさいわねっ。毎日特訓してるのに成長しない士郎が悪いんでしょ!」
「う……いや、そりゃ確かにそうだけど……」
「固有結界なんて珍奇な力持ってても士郎は全然使いこなせてないんだから、もっと基礎を鍛えなさい」
凛のお叱りを受けながら、武家屋敷のような懐かしの衛宮邸へと駆け足で向かう二人。
「はい……ていうか、珍奇って――」
「士郎っ、止まって!!」
「!?」
「確認します。衛宮士郎。遠坂凛。御本人で間違いありませんね?」
街灯の真下に少女が立っている。遠目からでも景色に馴染まない白髪の少女。
だがこの二人も、この瞬間まで「存在を認識」出来なかった。
「貴女……何者?一般人じゃないわね」
「質問をしているのはこちらですが」
「人に名前を尋ねるときは自分からって教えられなかった?」
「失礼しました。私の名はシンナ・ローゼンクロイツ。クリスチャン・ローゼンクロイツの子孫です」
淡々と機械のように自己紹介を済ませる少女。その顔からは如何なる感情も読み取れない。
それと対照的だったのは凛だった。
「ローゼンクロイツ、ですって?」
「知ってるのか、遠坂?」
「クリスチャン・ローゼンクロイツ……伝説の魔術師。東方の魔術や錬金術なんかの知識に加えて、当時の最先端の西洋哲学・魔術までも修め、さらにはそれらを融合することにすら成功した超人よ。それどころか彼は魔術師でありながら魔法使いと同等、もしくはそれ以上の力を持っていたの」
「私達の祖を良くご存知のようですね。ところで、こちらの質問に答えてもらっても宜しいでしょうか」
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