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「ぅぁぐ!?」
「士郎!!」
気を抜いていたせいで剣閃は見えなかった。
傷を受けた言い訳はそれで十分。だが傷を受けた『理由』はそれ以上に。
「この程度でしたか、衛宮士郎」
この剣士の実力の変貌が予想もつかない程向上したことにある。それも一瞬で。
「楽に他のマスターを減らせるのは有り難い事ですが……」
「次は首から上を狙う」
剣士が中段に構えを取る。
「残念ですね」
「いくぞ」
剣が動く。これから描く軌道は半楕円。
遠坂が何か叫んでる。でもスローモーションすぎて何を言っているのか分からない。
剣の動きがさっきよりも遅くなってる。ほとんど止まってるじゃないか。これなら簡単に避けれるし、勝てるんだけど。
でも、体が動かないんじゃどうしようもない。
ああ、くそ。いらいらするな。いつになったらその剣は動くんだよ。こっちは急いでるんだよ。せっかく久しぶりに藤ねえや桜に会えるっていうのにバス乗り間違えるはそのまま終点までのっちまうはで無駄に時間食ってるのにここでもさらに時間食うなんてほんと今日はツイてないな。あれ。でもここで死んじまうんだったらそんなこと気にしても仕方ないか。そもそもなんでこんなにいらいらしてるんだっけ俺。全然思い出せないけど剣が一向に動かないこととは全然関係無い事で
「セイバーを見てみたかったです」
違うだろ。
俺がいらいらしてるのは寝過ごしたとか剣が動かないとかそういうことじゃなくて。
俺が本当にいらついてたのは――
「!?」
士郎の左手に消えたはずの刻まれた「絆」が、士郎の想いに応え眩い光を放つ。
「来いっ」
士郎の目の前に複雑な式の赤い魔方陣が現れる。
「セイバアアアアアアアッ!!!!!」
――『彼女』のことを忘れていた自分にだ!!!
宙に描かれた魔方陣から、紺碧の衣と白銀の鎧に身を包んだ竜血の獅子が姿を現す。
同時に、金髪の剣士が士郎へと振るっていた剣は弾かれ、剣士はその身に縦に走った巨大な亀裂を刻むこととなった。
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