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誰かが呼ぶ声がする。「お~い、お~い」
声のする方に振り返ると、一人の少年が笑顔で、手をふっていた。
「あなたは誰?どうして私を呼ぶの?」
「美香ちゃん、忘れちゃったの?僕の事」少年は、悲しそうにそう言った。
「こっちへおいでよ、楽しいよ。花は綺麗だし、みんな良い人達ばかりさ。」
「さぁ、この手につかまって。」
少年はそっと手を差し延べた。その手は、驚く程冷たく、まるで氷のようだ。
「あたし、やっぱり行けないよ。ごめんね。まだ、やらなきゃならない事があるの」
「あんな世の中にまだ未練があるのか、愚か者が、お前の居場所はもうない。それでも戻るんだな!」
その声は、今まで聞いた事もないくらい、恐ろしかった。
「美香、美香しっかりして!」川の向こう岸には、両親と妹が、心配そうに私を呼んでいる。
「戻らなきゃ、みんな心配しているから」美香は、少年の手を振り解いて、川岸に歩き始めた。
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