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「お帰り悠くん……って、またべたべたになって。もうちょっと器用に帰れないのかしら?」
「自分……不器用なもんで。あと、悠くんは勘弁して」
廊下を歩いていると、いきなり正面の扉が開かれる。そして現れたこの人が俺の母さん。
長い茶髪を巻き上げて後ろでピンで止めている。親父的には“白衣の女神”らしい。
まぁ、あの親父の言うことは九割九分当てにならないから気にしなくていいだろう。
いつもこの廊下の突き当たりから繋がっているカウンターでお客の相手をしている。
もちろん、白衣なのは変な趣味じゃなくて仕事の都合上だ。
「まったく……自分で洗濯機に入れとくこと。あとご飯も自分で買っといてね」
「へいへい」
そのまま左に曲がって風呂場へと向かう。
そして、脱衣場で鞄をそこら辺に放って湿り気を含んだ服を手早く脱ぎ去る。
母さんには俺が濡れて帰ることが分かっていたんだろう、すでに風呂にはお湯が張ってあった。
「ふぃ~」
冷え込んだ外界から風呂というヘブンに帰ってきたんだ。自然とじじ臭い声も漏れる。
「今日の飯は……カツ丼にプリンのセットだな」
いつもの事。動物とはいえ、命を扱う仕事をしている両親はすこぶる忙しい。
飯などは暇なときに手早く済ましてしまう。だから、必然的に俺は一人で食べることになる。
まぁ、不満じゃ無いけど。
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