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いい気分で風呂から出たが、そこで重大な問題に気付く。
「……着替えねぇじゃん」
くそ……しょうがない。すぽぽーんで行くか。
そんなこんなで、俺はすぽぽーんのまま忍び足で廊下を進む。
二階の俺の部屋に行くためにはどうしても母さんのいるカウンターに通ずる扉を横切らなければならない。
「俺が出たって分かったらまた何か言ってくるだろうからな……」
小言を漏らして更に神経を研ぎ澄ます。
扉はすぐそば。あそこを右に曲がればすぐに階段だ。右手に持つ鞄の僅かに擦れる音すら騒がしく感じた。
あと数歩……。ここを曲がって……勝…
「悠くん。お金はいつも通りテーブルに……」
……ってないな。
扉を開けて視線をゆっくりと上げる母さんと、階段に片足をかけたままブリキの玩具のようにぎこちなく振り返る俺の視線が重なり合う。
サムくんはちょうど足に隠れていたのが唯一の救いかな。
「……あ~、ゴメンね。お母さんそっちの趣味には免疫無いのよ」
「違うから!着替えを忘れただけで……」
「分かってるわ。パパに内緒にしといて上げるから。じゃね」
言い訳すらさせぬ早口で言い終えると、ピシャリと扉を閉められる。
あぁ……何か虚しい。
サヨナラ負けした後に相手チームから笑顔でドンマイ的な事を言われるのってこんな感じか。
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