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AC一機分程度のスペースしかない通路を、漆黒の二脚ACが地響きを鳴らしつつ侵攻していた。肩に巨大なグレネードランチャー二門を背負ったそれは、アライアンス本部直属の『ピンチベック』だった。
「まったく…なんで僕がこんなとこまで…」
そのパイロットである『モリ・カドル』は、機器の大半が省略されたコクピットの中で不平を漏らした。
『不満を言わないの。それともアライアンスから追い出されたい?』
その愚痴に対し、管制室のオペレーターは辛辣な口調で返した。
「ちょっ、そこまで言ってないでしょ!」
モリ・カドルは慌ててオペレーターへと弁解の言葉を述べた。その動揺がACの歩行モーションにも影響したのか、ピンチベックは微妙にふらつき始めた。
「(ちぇっ、あれで黙ってれば結構美人なのにな…)」
『何か?』
「いえ、何も」
『作戦中よ。不必要な発言は慎んで』
「じゃあ必要な発言を。バーテックスのACと多数、直上したらどうすればいいと思う?」
『そうね、敵ACはいずれもハイスペックと予想されるわ。機動力を活かした近距離でのグレネードランチャーによる正面からの極めて連続しての高火力攻撃主体の短期戦が有効でしょうね』
「そ、そんなっ!!」
非常に適当な会話を交わしながらも、ピンチベックは、通路の行き止まりに辿り着いた。周囲に、ACが通れそうなスペースは無く、ゲートもなく、ただバーテックスのエンブレムが描かれた壁が目の前にあるだけだった。
『行き止まりのようね、ACから降りて調査なさい』
「なんでそういう発想が最初に出ますか」
既にもう何度目になるか分からない愚痴をこぼしながらも、モリ・カドルはACとのリンクを絶ち、ピンチベックのコクピットハッチを開けて降りた。
彼もまた、プラスと呼ばれる者であり、身体能力という点においても、常人より優れている。それで、彼もあまり反論しなかったのだ。
「よし、このドアから入れそうだな…」
彼は徐に侵入し、足音を消して部屋の真ん中の方に進んで行った。
しかし、彼に気付いた者が居た。部屋の中に、二人の男の声が響き渡った。
『何だ貴様は』
『乱入してくるとはとんでもない奴だ』
「?!」
モリ・カドルは驚きながらも、声のした方へ振り向き、声の主を確認した。それぞれ細身と、がっしりした体格の男性だった。
「こ、こいつらバーテックスなのか?」
モリ・カドルは慌てて、ホルスターの拳銃に手を伸ばした。
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