253人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ以上、街に近づけさせるな!」
青い服を着た男の怒号が飛ぶ。男が見据えるは荒野に群がる獣。
正確には獣ではない。異形のモノ…元は何かしらの生き物だったモノ。
眼前に広がるそれは…魔獣と呼ばれる存在(モノ)。
その魔獣集団が街へと迫っているのだ。数にしておよそ千匹は居るだろうか。
ズガァァァァァァン!
集団に赤い閃光が降りかかる。
赤い服を着、赤いローブを纏った男が魔法を集団に放ったのだ。
数十匹を吹き飛ばし、集団の一角に穴を開ける。
だが、焼け石に水が如く穴はすぐさま埋まってゆく。
先程から何度も繰り返し、接近を遅らせてはいるのだが。
「くそっ!キリが無いぜ。こりゃお手上げかな?」
やれやれと言った表情で呟きを漏らす。
そんな彼に対し、体に不釣合いな程長い槍を持つ黒い服を着た少女が声を掛ける。と言うより怒鳴る。
「諦めるんじゃねー!アイツだって頑張ってるんだ…あたしらが此処で踏ん張らないでどうする!」
彼の近くで、彼の討ち漏らした魔獣を手持ちの槍と魔法で、各個処理しながらと言う手一杯の状況。
それでも彼女は”アイツ”という希望を捨てず、彼を叱咤激励する。
彼女は更に続ける。
「アイツがっ!戻ってきたっ!時にっ!」
右から飛び掛る狼系の魔獣を槍で右から左へと薙ぎ討ち、次いで左から迫る虎系の魔獣に薙いだ勢いを殺さず利用し、突き貫く。そして、突き刺した槍を引き抜きつつ魔法を展開し、近くに居た魔獣を数匹仕留める。
魔法を放った姿勢から直立姿勢へと移ると、彼に向き直り指差し言い放った。
「アイツにっ!任されたこの街を、この世界を、あたし達は守るって約束したんだ。ここで諦めたら…アイツが戻ってきた時に顔向けできねぇ…」
「…あぁ、解って…っ!後ろ!」
彼が頷こうとした瞬間、彼女の後ろから魔獣が彼女に襲い掛かる。
その言葉に気付いた彼女が戦闘態勢に移るよりも早く、魔獣の口が彼女の左上腕に牙を立てていた。
「つっ…あっ!」
激痛と共に彼女は直感した。”持っていかれる”と。
腕に牙が食い込み、肉を裂き、骨を絶たんとする。
一瞬の出来事だ。肉が裂ける音を音ではなく目で感じ、骨を絶とうとする牙を感じ…。
彼女は持っていかれる恐怖から目を閉じようとした。
刹那、金色の一閃が舞った…。
最初のコメントを投稿しよう!