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「ここに来るのは半年ぶりかな…」
夜も明けていない、とある小高い岡の上。一人の少年が立っていた。
短く切った琥珀色の髪にサファイアブルーの瞳。
どこかの学園の制服であろう服装は、その証拠だと言わんばかりに胸ポケットに学園章が刺繍されている、水色を基調としたブレザーに濃紺のズボン。
彼の立つ1m先には二つの丸い石が鎮座している。
その石は恐らくは墓石だろう。
だが、弔われる者の名が無い。
彼は墓に眠る者に語りかけた。
「ここに来るのは…」
と、一旦区切って、何か思案しだす。「え~っと」とか、「う~~んと」とか呟きながら、暫く考えた彼は思案する為に外した視線を、墓へ戻し続ける。
「…うん、命日以外にはもう…ここへは来ないよ。僕はもう大丈夫。だから…」
再び区切って目に浮かんできた涙を、指でそっと拭う。
「…だから、ゆっくりお休み…」
彼が、墓に眠る者の名前を続けようとした時、強い風が吹いた。
風によって声が掻き消され、聞き取れなくなった。
「行って来ます」
踵を返し、彼は歩き出した。
聞き取れなかった墓に眠る者に、家を出るかのような挨拶をする。
墓を見返すことなく、後ろ手で手を振りながら。
さっきまでは暗かった空が、曙に染まっていた。
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