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美弥の部屋には、灰皿が無い。
電熱式のコンロの上に設置された、ユニット式の換気扇のスイッチを押して。
俺は、NEXTに100円のターボライターで火を点けた。
ふぅ、と吐いた薄青紫の煙が換気扇に吸い込まれて行く。
薄い革ジャケットの内ポケットから、アルミ製の携帯灰皿を取り出して。
灰皿の蓋をスライドさせながら、コンロの横に置いた。
美弥が浴びるシャワーの音が、バスルームからかすかに聞こえてくる。
俺は煙を燻(くゆ)らせながら、ボーっと考える。
美弥とは、もう終わりにしなければならない……。
そのことは、夏くらいからずっと考えていたことだ。
でも俺は、その決断がなかなか出来ないでいた。
美弥は、俺にとって便利な女だ。
気が向いたときに、恵比寿にある美弥の部屋に行って。
美弥を抱いて、自分の部屋に帰る。
そんな生活を、去年の秋から続けていた。
美弥は、きっと俺を愛してくれているのだろう。
だけど、俺はどうしても美弥を深く愛せない……。
そのとき、突然。
俺のケータイが振動を始めた。
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