晴。

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バンッ 「ねぇ雨降ってきた!」 扉が弾かれて強い声に、 びっ…くりした。 「ひっでぇ。さーみぃ濡れた。俺もコーヒー」 「ヨナ。もっと静かに入ってきなさい」 「あれっ客いたの?わりぃなっ」 「あぁ本当に」 ごめんね。とマスターは目配せをくれて、頷いた。 はっきりしてて、ちょっと乱暴で無愛想な…イマドキって感じの男の子。 「晩飯はぁ?洗濯物入れた?さっみぃ、シャワー浴びてくる」 「どっちもまだ」 「リサはぁ?」 「上じゃない?今朝ご飯食べに下りて来たくらいだから」 「ふーん」 正反対だ。ちょっと、苦手かも。 雨かぁ。今日雨予報じゃなかったのに。 少し冷めたコーヒーをすすりながら思った。 「あー。そこの人、うるさくしてごめんねぇ、ごゆっくりぃ」 左手奥の階段を駆け上がる途中、彼は手摺りにもたれて言う。 首を振った。 無愛想で、やっぱりちょっと怖い。なんとなく底知れぬ威圧感を感じる。 視線を手元に戻す。 「日が沈むのが早くなってきましたね」 マスターがカウンターの店内のキャンドルを燈した。 小さな、15センチくらいのランタン。 その中でオレンジに揺れる明かりは、迷う者を導くような、温もりと安心感をくれる。 「あっ。ごゆっくりとか言ったけど、めちゃ雨降ってるし。平気?」再び、階段から大きな足音と声がした。 「傘あんの?持ってくる」 「あぁ頼む」 えっ。 「あのっ」 大丈夫っですって言おうとしたのに…。 「この時期の雨は冷えますし、結構降ってますから」 気にしないで。甘えなさいとマスターが微笑む。 蚊帳の外で話が進み。 傘。 嬉しかった。 なんて気の利く(多分)…兄弟だ。 店内の音楽とコーヒーの香り、雨の音。 すべてが心地良かった。
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