85人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいまー」
リビングのドアを開けた智明(ともあき)を、
「おかえり~」
キッチンに立っていた諒(りょう)が、振り返り、笑顔で迎える。
「来週から残業入るかもな」
「かなり遅くなりそう?」
「まぁ、そんなに遅くは……」
上着をぬぎ、ネクタイをとって、それらをソファの背もたれに、いつものように放った智明は、その少し先、ローテーブルの上に置かれてあるものに、目線が止まった。
大きな紙袋。
丁寧に二重袋になっている。
袋に印刷されたロゴマークと店名は、有名書店のそれである。
「――」
智明はじーっと、諒を見据えた。
「な、なに」
背中に感じたのか、ゆっくりと、諒がこちらに顔を向ける。
「りょーく~ん、こ・れ・は、なにかなぁ~?」
「ええっと」
目は笑いながらも、口端があきらかにひきつっている諒は、
「本、でーす」
冗談は通用しないと察知したのだろう、素直に答えはしたが、声は小さかった。
「ちょっと、いいかなぁ」
智明はちょいちょいと、手招きする。
「……」
諒は黙って、智明のそばに寄ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!