愛する人へ。

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「ひ、ひひゃよ」 「これのどこが整理したんだ~」 「あ、あそそ」  諒が指差した場所には、紙袋が一つあった。しかし、小さい。 「あれだけか」 「だっへぇ、えられそいわれへも、えらりきれないひ、まらよみおわっけないのがあるひ」 「……前に読んでいた歴史小説だっけ。読み終わったのか」 「ま、まだゃ」 「その前の、前後編の本は」 「ま、まだゃ」 「その前の本は」 「……ま、まだゃ」 「……」  軽い溜め息とともに、智明は諒から手を放した。  特定の作家もいるようだが、気になった内容の本は、それがどんな分野のものでも、彼は買い込んでしまう。ただ好んで多く買っているのは小説で、ちらほらと専門書などが混ざる様子である。  専門書はよかった。すぐに読み終えてくれるから。  しかし厄介なのは小説だった。  始めから終わりまで、明るい内容のものは問題ないのだが、人の生死が関わる内容のものになると、途端に読むスピードが落ちる。  重厚な人間ドラマが展開される中での、登場人物の“死”は、きわめつけだった。  読むスピードが落ちるのではない。完全に止まってしまうのだ。本を閉じてしまうのである。
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