愛する人へ。

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「なに」 「もし、俺が死んだらお前、どうするんだ」  きっと、感情移入の度合いが、半端ではないのだろう。  その作品を読んでいる時、同時にその世界にいるかのような感覚に、陥っているに違いない。  ――彼との出会いは、高校の図書室であった。  たまたま、用事があって赴いた。用事がなければ来ない場所と、いってもいい。  放課後の図書室は、数人の生徒がいるだけで、極めて静かだった。  早々に、用事を済ませた。 「……?」  帰ろうとした時、変な音が耳に入った。 「ああ、気にしないで。本を読んでいる子の声だから」  図書の先生にそうは言われたものの、あまりに変な声(物音かと思った。それでも変だが)だったので、一体何事だろうと、智明はその方向へ歩いていった。  驚いた。 「うっ……ひっく、ひっ……」  男子生徒が、涙をぼろぼろ流しながら本を読んでいたのである。  あまりの光景に、それ以上近付けず、ただその様を見続けることしか出来なかった。
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