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──── 太陽が、眩しい。
だからといって、この寒さを凌げるわけではない事は分かっていた。いくら太陽の光が暖かみをくれるとはいえ、冬の季節、それもまだ一月半ばじゃ、それはマッチに灯した火の暖かさ程度でしかない。
コートが自分の前でそのボタンが全て留められているのを全身で再確認しながら、学校指定の大きめの布製手提げ鞄を肩まで持ち上げて持ち直す。ポケットから手を出すのも煩わしい。昨日降った雪が僅かに残る歩道を歩く。
「掩(えん)ちゃん、待って!」
後ろから聞こえた声。けど振り向いてやらない。
残った雪と溶けた雪の混じる歩道を走る音がする。…………あのアホ。
ちなみに「掩」とはオレの事だ。フルネームは、比津岐 掩(ひつぎ えん)になる。
「おはよ! 掩ちゃ、きゃっ!」
すぐ後ろに聞こえた声。滑る音。そんでもって、コートの後ろに重み。体に軽くぶつかる固いものはバックだろう。……しがみついたな、こいつ。
「あ゛? 何してんだ、テメェ」
「ご、ゴメン!」
肩越しに振り返って睨み付けてやりゃあ、慌てて離れる。ぶつかった時にズレたのか、黒斑(くろぶち)の丸い眼鏡を直すのが見えた。眼鏡の後、肩まであるストレートの短い黒髪も手櫛で直していく。
謝られたところで、変わるものは何一つ無い。何も言わねえでオレは歩きだす。隣を歩く足音が聞こえたが、敢えて振り向いたりはしなかった。
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