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「俺は、どっちかっていうと朝が嫌いだったな。
夜のほうが好きだった。
朝ってさ、なんか“はじまり”のイメージがあってさ。
一日がはじまるのは朝のせいなんだって本気で思ってたんだ。
だから朝が嫌いだった。
“はじまり”が嫌いだったんだな」
「…どうして?」
「ん?」
「どうして“はじまり”が嫌いなの?」
大輔は少し黙った。
だがまたすぐ話しはじめる。
療のほうは見ないで、天井の、どこかを見ながら。
「俺に“はじまり”が無かったから。
終わりも無かったけどな。
毎日毎日が同じことの繰り返しで。
楽しいことも、つまらないこともなかった。
心がなんにも感じないって言うのかな?
ただ俺は息をして、飯をくって寝る。
そんな人形になったような気分だった。
人形って、“はじまり”が無いだろ?」
「…よくわかんないや」
「そうか。まぁそれでもいいけどな。
とにかく、俺には“はじまり”が無かった。
だから“はじまり”の象徴だった朝が憎かった。それだけのことさ」
最後、はぐらかしたような口調になって大輔は話しを止めた。
横から療の視線を感じているせいもあったかもしれない。
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