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――ガラガラ。
まだ人がほとんどいない学校にドアが開く音が響いていく。
司は誰もいない教室に一歩踏み込んで、
「…あれ?」
戸惑った。
誰もいないはずの教室には、すでに人がいた。
先生ではない。生徒だ。
しかもこのクラスの。
「豊…じゃん」
名前を呼ばれたせいなのか、先にクラスにいた生徒、東雲 豊がこちらを向いた。
赤みがかった髪が目を隠しそうなほど伸びている。
いや、半分は隠れていた。
ただそれが毛先のために、まばらに動くので瞳が見えるだけの話し。
豊は横向きに座って、いつも通り本を読んでいた。
カバーがかけてあるので種類はわからないが、昨日見たのと同じであれば文庫本だろう。
司は自分の席に行った。
豊の隣りの席が自分の席。
鞄を机の上に置き、昨日持ち帰った教科書やらを机の中へと入れていく。
…そういえば、鞄の重さ、感じなかったな。
いつもより数段重いはずの鞄。
その重ささえ感じないということは、自分は相当な場所にいるらしいと自覚した。
今日追試がなかったら…明日までオレは持つのかな?
教科書をしまっている途中、チラチラと豊が視界に入ってきた。
自分のほうを向いて本を読んでいる豊。
なぜ横向きになって読むのかはわからないが、おそらく癖なのだろう。
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